ニュース & トピックス: 東北大学大学院理学研究科化学専攻の理論化学研究室百周年記念行事によせて

 2012年5月12日(土)に東北大学片平キャンパスさくらホールにて開催された東北大学大学院理学研究科化学専攻の理論化学研究室百周年記念行事において挨拶を致しました。
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東北大学大学院理学研究科化学専攻の理論化学研究室百周年記念行事によせて
                                                    増原 宏

 理論化学研究室百周年まことにおめでとうございます。大野先生、美齊津先生の代になってから、理論化学研究室の歴史を押さえて節目節目にこういう イベントをしていただいて、卒業生として感謝しています。当研究室は、片山正夫先生から始まって、富永斉、小泉正夫、中川一郎、国分央、大野公夫、 美斉津文典の歴代教授が続きますが、小泉研1966年学卒、1968年修士終了の私は、小泉先生含め5人の先生を存じ上げています。小泉研究室からは、 福村現理学研究科長をはじめ、吉良爽元理研副理事長・元(財)高輝度光科学研究センター理事長、興直孝元JST専務理事・前静岡大学長などなどすばらしい人を 輩出していますが、その人達をまとめようとする努力がちょっと希薄なので損をしているのではないかとかねがね思っていましたので、こういう機会を作ってどんどん 盛り上げていただきたいと思います。卒業生としてもご協力できるところは喜んでしたいと思って今日は参りました。ここでは現在の理論化学研究室の職員、 院生に御願いしたいことを二つ申し上げ挨拶とさせていただきます。

 一つは先生方へのお願いです。理学部は学問であり、学問は人である。新しい学問であれば、何人ものサイエンティストが生まれ、栄える。 その人たちが又次の学問を作る。この循環の一つを仙台の地から、理論化学研究室から発信してもらいたい。私の恩師の小泉正夫先生は反応物理化学を ベースに、資源のない日本をどう建てなおすかを考えられ光化学をはじめられたと聞いておりました。今太陽エネルギーの変換化学の研究が重要視されていますが、 すでに昭和20年代にその発想はあったのです。そして当時としては新しい光化学は、仙台の小泉先生と東工大の田中郁三先生で始まり、その後有機光化学者が合流して 大きな流れとなったと言われています。日本の光化学研究は仙台から始まったと皆さんが思っていたのです。私はアジア光化学協会を作るのに努力した一人ですが、 アジアの光化学を考えるときには、小泉時代の日本の光化学を考えたものです。次の時代の物理化学の一つが仙台から始まったと言われるようにしてほしいと心から 願っています。

 二つ目は若い人たちへのお願いです。将来のこと、これからの学問のこと、日本のこと、日本にどう貢献するかと言うことを考えてほしいと思っています。 それには分析が必要です。皆さんはいま日本の学問が、物理化学がどういう現状で、これからどうなると思っていますか?どう分析し、どうなると予測していますか? それにしたがって自分はどうしようと思いますか?私たちが1962年に入学した頃は、経済がまさに右上がりで、理工科系ブームで、 理工系の学科が2倍増された頃です。科学技術は伸びると信じられていましたが、そして学問的に名声のあった小泉研でしたが、先生が偉くても 私の研究者人生がどうなるか、将来がどうなるのか、努力して研究がうまく行ったとしてどういう道が開かれるのか、不安でたまりませんでした。 ある時期、どういう先生が物理化学の教授を勤めておられ、如何にその学問を展開してこられたのか調べてみました。その結果わかったことは、 北大から九大までの理学部物理化学の教授の半数以上は東大理学部のご出身で、東北大も中島威先生を除けば安積、小泉先生も東大でした。 物理化学、光化学が好きだからこの道を選んだとはいえ、これは非常に難しい世界に入ってしまったものだと後悔しました。かつその後も長く プレッシャーを感じ続けたものです。如何にこの世界で生き残るかを考えました。それが人より早く新しいことをしよう、新しい状況に身をおこう、 そのことにより新しい学問に先鞭をつけようとする姿勢に繋がったのだと思います。基礎工学部、レーザー、繊維学部、ERATO, 応用物理学科、バイオ応用、 台湾という私のキーワードは全てここに帰着します。今の若い人なら、私の時のように北大から九大までの人事予測ではなく、世界が対象であるはずです。 アジアこそがこれからの活躍の場です。数年前に学術会議ではすでにBeyond Chinaと言われています。光化学の若手の一人はアジアを飛び越えて、サウジアラビアの 准教授になった人もいます。仙台から、理論化学研究室からそういう人がどんどん出てくることを祈っています。



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